2012年3月1日木曜日

不埒な肩書き



白ワインを八杯程飲んだところで気がついた。俺は酔っている。顔が特別赤くなっている訳でも無いし、特に足元がふらつく訳でもないが、アルコールが体の中をゆっくりとまわり始めて、意識を保つのが非常に苦痛である。さらにカクテルを幾らか飲むことにしたが、その時にはもう”どうなってもかまわない”という思いでいっぱいで、俺はそのパーティをぶち壊す事にしたのだ。思えばなんとも非情な奴らで、忘れていたものをとってつけたように呼び出し、そして腫れものを見るかのような目で十数人にじろじろと見られたのではどうも生きた心地がしない。話をしていても彼らは穏便平和の世界の住人、あまりにもつまらない。よく”大学生の騒ぎ方は勢いにまかせていてつまらない”という人がいるけれども、大勢で飲んでいて”最近どうしてるの”なんて会話をする方が余計つまらない。おばはんか。井戸端会議のご近所さんか。騒ぎたいように騒いで何が悪い。生きたいように生きて何が悪い。酒を飲む以外に何がある。




「私、こんなこと云ったら変な人って思われるかもしれないんだけど、幽霊はいると思うの。だって見たことある。」

まずいことになったと俺たち三人は顔を見合わせた。間違いない。キチガイだ。元より六本木でクラブに行くような女というのはそもそも変な女ばかりだというのはわかっていたが、この女は、キチガイなんだ。そもそも卓也が悪かった。彼女と別れたから女と遊びたいと言い出して、よりによってそれをクラブに行くなんてことにしやがって。普通に街で適当にナンパでもすればいいのに、なんでわざわざ金を払ってそういういわゆる”集まってる”場所に行くのだろうか。クラブなんてものは、所謂”釣り堀”だ。釣れてナンボ、魚達は釣られる為にそこに集められているし、彼女達は釣られる為にそこに集まっている。釣り堀で釣りなんて、当たり前すぎてスリルがないと俺は思う。どうせなら砂浜、大海原、奇をてらってどぶなんかでザリガニを狙ってみてもいい、素潜りで雲丹が取れることだってあるかもしれない。街でのナンパのほうが絶対に面白いの思うのだけれど。それに、釣り堀なんかに閉じ込められ続けた魚は絶対に不味い。釣られ慣れてる魚もいるかもしれないし、あんなとこにずっといたら病気だって持ってるかもしれない。気も狂ってるかもしれない。そう、まさにこの女のように、。


「だって普通に一人のときおしゃべりもするし、変な事を云うようだけど幽霊とセックスもしてるの。」

ミカ、だっけ?ミカはそういうとバッグの中から煙草を取り出して火をつけた。卓也がこちらにぼそぼそとささやく。
(煙草吸わないって言ってなかったっけ。)
そうだ、彼女は間違いなくそう言っていた、煙草は吸わないと。
(おそらく)
俺も煙草が無いとこの空間をやっていけない。
(彼女は多重人格だ。)

ずっと黙っていた良平が
「千円だ。」
と千円を机に放り投げた。
「俺は5人いると思う。」
多重人格の数で賭けをしようというわけなのだ。俺と卓也は千円を放り投げた。
「3」
「7」
「いくねぇ」
「シャレになんねえよ」
ミカが”なになに、賭けごと?”と入ってきたが、男の勝負ということで黙っておいた。
 
 その後朝まで飲んだところ、考察結果は以下の通りである。まず、”第一の人格”非常に明るいノリのよい人格、卓也が声をかけた時の性格、彼女は自分のことをみーたんと呼ぶので便宜上この第一の人格を”みーたん”と呼ぶことにしよう。彼女は、後述する別の人格が出てきてからも度々俺達の前に姿を見せる時があって、トイレから帰ってくると俺達にいきなり一気をさせることが何度かあった。そして、”第二の人格”クラブから別の店に移ってきた時に、少し落ち着いていて、男の話を聞きたがり、自分の事を名前で”ミカ”と呼ぶ人格、”煙草は吸わない”と俺達に云った人格だ。

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