2011年12月16日金曜日

願い事

朝起きたら妖精がいた。曰く、なんでも願い事を一つ叶えてくれると云う、俺は
「みんなが俺のことを愛してくれますように。」
と頼むと、わかったと云って妖精は消えていった。
ベッドから起きて服を着替えると俺はタンスの角に小指をぶつけた。リビングに降りていくと嫁が”会社に遅刻する、はやく行け”と怒鳴り散らし、娘はいつものように挨拶一つせずに学校に出かけて行った。
 会社では上司から叱られ、同僚からはこの前の麻雀の掛け金三千円を払えと催促された。俺は(ああ、俺は幸せだったんだ、そしてこれからもずっと)と思った。何か、他の願い事を頼めばよかったと少し後悔したが、今はこれで十分なようにも思える。

落語『船橋法典』



駅の名前云うのは、変というか、妙な名前のものが多いですね。たんに珍しいところから言えば、久喜、羽黒、安食なんていうのは関東でも珍しい駅名の部類でございます。宇都宮なんかに、かますざかなんて駅もあります。えらい攻撃的やなあー。なにかますんかなー。と思うわけでございます。ところが、これを上回る駅名がありまして。『クリはま』。えらいもんをぶつけてしまったなあー。クリとはまやで。クリ云うたらあれやし、はま云うたら蛤です。駅名決める時に落語家のひとりでも呼べばねえ、落語家なんてのはだいたい助べえですから隠語のなんやかんやがわかったでしょうから、止めたんでしょうけどねえ。とにかく自分の住んでいるところの駅名がおかしい云うんはすんごいいやなんです。僕もいつも嫌な思いしてます。競馬やってる方にとってはメジャーな駅なんですけれども、船橋法典云う駅があります。法典てなんや。法典云うたらあれですよ。ハムラビ法典とか、法律が書いてある本のこと云うんです。船橋法典云うたらなんや、市条例か。ただのローカルルールですよんなもん...。そんな名前なもんですから、友達なんかが来るとこぞって馬鹿にするんです。あるときなんてね、
「おう、よう来たな、よう来たな。なんか酒でも買うていくか」
「遠いな千葉は、よう来んわ。」
「まあ、まあ。ほら、ここが船橋法典や。」
「...ココアはやっぱりバンホーテン?」
「んな事云うてへんわ、フナバシホウテン、ここの駅の名前が船橋法典云うのや。」
「へえー、変な名前やな」
「見てみ、あそこに看板書いてあるやろ、”船橋”に”法典” 法典云うたらあれや」
「ココアやろ」
「ちゃうわ!ハムラビ法典とかあるやろが!」
「知らん、ココアのブランドか」
「違うわ!」


とまあ、こんな風にココア扱いされて馬鹿にされるんです。
でまた駅のまわりもあんまり栄えてない。競馬場だけは立派にあるんですけれど、それ以外はなーんにもない。もしかしたら僕が知らない施設があるかもしれない!と思ってインターネットで調べたんです。今すごいですね、インターネットでなんでも出てくる。写真なんかも出てくるんですね。そしたら駅前の写真が出てきたんですよ。そしたらね、駅前で小学生がなわとびやってる写真。なんでそこでやってんねん。あのー、駅前がタクシー乗り場みたいになって広場みたいになってるんですよ。でもそこが結構車の往来が激しいから危ないんです。なんもこんな駅前まで出てこなくとも家の前の車の少ない道路の前でやればええのに...。結局その時探しても何も目新しい施設は見つかりませんでした。ところがここ数年、船橋法典は目覚ましい進歩を遂げました。隣の駅、西船橋の駅が改装されたのを皮切りに、いろんな建物がたちはじめました。ラーメン屋、ファミリーレストラン、コンビニの10m隣にコンビニ。スーパーの50m先にスーパー。なんか違うもん作れ!!意味あるかいアホ!! ところが、ついにできたんです。大きな建物が。
「よっしゃーこれで有名な駅の仲間入りやーバンホーテンとかココアとか言われんですむわーやったーほほほー」おもて喜んでたんですね。
そいでね、できた建物の名前見たんですよ。


”ホーテンの湯”


こらあかん...まだココアで馬鹿にされるわ...




ー終ー


ひとつきなんぼ

亮介は考えていた。一杯一○○○円のバーへ行き、二人で八○○○円程酒を飲み、ホテルへ行った。ホテル第は全額払ったから、七○○○円。今日この女に総額一万五○○○円使ったことになる。かなり酔っぱらっていた俺は、一度しかセックスをしていない。かなり酔っぱらっていたから、おそらく射精も早かったろう。五十回も突いていない。そうなると一万五○○○円÷五十突き=三○○円/一突き 一突きに三○○円払っていたことになる。そう考えるとラッキーストライクは二十本で四百四十円だから、煙草というのはなんと安い棒であろうか。それに比べて俺の相棒ときたら!誇らしい気持ちになりかけたが結局金を払っているのは自分なのだと云うことに気づき嫌な気持ちになった。
 この一万五○○○円を他の事に使うとしたら俺は何に使ったろうか。服か、いや、容姿の美化に使うならそれは女にくれてやるのと変わらない。食べ物にしたって、一晩で一万五○○○円など、あほらしい。ふぐでも食うのか。となるとやはり、酒と女に使うくらいしか結局あてがないのだ。一突き三○○円、なんて贅沢なんだろう。再び自分を誇りに思った。

2011年12月14日水曜日

けむり

素敵な世界に浸りたいときはいつも酒を飲むようにしている。それも、ドライマルガリータか、ドライマティーニでなくては駄目だ。どちらかと言うとマルガリータよりかは、マティーニが好ましい。そしてシェイクのマティーニであれば尚良い。一杯、二杯とマティーニを飲み干していく。一杯目のマティーニではスパイのような気分を味わう事が出来る。二杯目からは非常にエロティックな気分になり隣に女性がいればこれを口説く。三杯目から七杯目までは何杯でも同じで、ただアルコールを摂取しているに過ぎない。しかし、七杯目のマティーニを飲み干すと、八杯目のマティーニの表面に霧のような、けむりのようなものが立つことがある。そのけむりは異次元に繋がっていて、ふと気づくとその中に吸い込まれていた、という経験を今までに三度した。その中で最も最近のものはことに奇妙な世界に誘われたのだった。


九畳程のその部屋には、面積の三分の一はあるかのような立派なクリスマスツリーがおはしていて、さらに残りの三分の一を埋める大きなグランドピアノがあって、そこに女の子が座っていて、ボレロを弾いている。
「ピアノでボレロ?!」
と俺はそのセンスの無さに驚愕し、全身の穴という穴から汗がにじみ出ていた。当然前述したとおり前の世界ではマティーニを八杯飲んでいたわけだから、そのにじみ出る汗というのがこれはもうジンなのである。

(汗が”ジン”わり)

等と下らない事を考えながら部屋を飛び出したのだが、そこは一面ネオンの輝く風俗街、ひとたびふらつけばキャッチの兄ちゃんが声をかけてくる。先程のボレロのせいで不機嫌な俺はそこに見えたMOTHERというROCKバーに駆け込んだのだった。俺の知らないメタルが流れている。サッポロを頼むとカウンターのマスクしてる姉ちゃんが缶のまま差し出してくる。せめてフタぐらい開けてくれよと思いながら曲をオーダーする。なんとなく、デビットボウイのダイヤモンドドッグスをたのむ。酔っぱらっているので聴いたか聴かないか、で曲が終わる。

「おねえさん、何が一番好きなん。」
と聞くと
「パンク」
とだけ返ってきた。
「イヌは無いんか、イヌ」
「メニューに載ってるの以外はない」

なんともそっけない姉ちゃんだと思いながら音楽のメニューをぱらぱらとめくる。ふとジョンライドンのディスイズノットアラブソングを思い出す。姉ちゃんに頼むが、五分立ってもなかなかかからない。姉ちゃんは棚をがちゃがちゃやっているので

「もしかして見つかんない?」
と聴くと
「見つからないわけねえだろ、そんなベタな選曲」
と言われてしまった。なにもそんな風に言わなくても、と思ったがそのまま飲む。ジョンライドンが終わり、俺はアマレットジンジャーを頼んでドリームシアターのメトロポリスパートツーを頼む。すると
「あ、ごめん。それない。」
と言われてしまう。悲しい。アマレットを少し飲んでとりあえずトイレに行くがもう頭ががんがん、足はふらふら、鏡を見れば驚く事に悲しき中年の顔である。顔を洗うと金を払って店をあとにした。外に出るともう歩くことができず、店を出た横の樽の前でしばし倒れこむ。目がかすむ。ああそうだ、これはそう、マティーニの霧だ。俺は夢の中にいたんだ。
気づけば落合の家のベッドの中だった。何故か下半身に何も身に着けていない状態であったが、部屋の中にその日つけていたズボンがあったので、これを良しとする。

腹が減ったのでラーメンを食いにいく。注がれた水が水道水で、辟易する。ラーメンもなんともまずい。ため息をつきながらこれを食べる。さよなら、幸せ。さよなら、また、マティーニの霧の中で会えたら。





2011年12月1日木曜日

夢日記

42歳だがどう見ても20代にしか見えない女性に恋をする。美しく、身長が高い。お互いに恋に落ちて、セックスしようとすると処女だという。

目が覚める。
体が全く動かないが非常に寒気がする。霊気を感じたので大声で"出ていけ"と言おうとするが全く声にならない。困った。なんとか起き上がると、ドアとキャビネットの5cmほどの隙間に不気味な女がいてこちらを見ている。これはまずい、一目散に家を出て、エレベーターのボタンを押すと、開いたが箱が無く、あの機会の中身があるのみだった。これは可笑しいと振り返り足元を見ると何故か見知らぬ靴がある。もしや夢では…?と思った瞬間目が覚める。ベッドの上である。しかし依然として霊気を感じる。より強くなっていた。あたりを見渡すとやはりあの女がいる。出ていけ!と云うとその女は自分の名を名乗ると(失念した)無数の毒蜘蛛になり俺を襲う。その色の赤と黒の線の色鮮やかなこと!
「待て、俺は蜘蛛が好きだから一匹たりとも踏めないよ」
と言うと、「あら、じゃあ襲うのは道理が違うね」と云って一匹の蜘蛛になる。飼育キットに入れた。
テレビを付けると朝番組をやっており、AKBの街中ゲリラライブのようなものを放送していた。といってもあまり有名な子はおらず、ぼうっとそれを見ていた。何故かセンターの女の子は背中を向けたまま歌っている、テレビの右端には、新メンバーとのテロップが貼ってある。ついにその子が振り返ると、以前付き合っていた事のある遥香であった。歌が終わるとテレビは遥香の特集になった。あいつ、ニュージーランドに行ったんじゃないか、と思いながらその番組をぼうとみる。可愛くなったなぁと感じる。
ところで友人達と5.6名で出かける事になり、専用モノレールのようなもので山を登る。そこで三種類の鍵と錠前を拾う。村についた。村では赤い看板、赤い鬼の仮面を被る風習があり少し不気味である。鍵を紛失したのでそのことを村長に云うと、拾っていたので渡してくれると言う。鍵を受け取った後部屋を出ようとドアを開けると大きな女性がぬーんと立っていた。焦る。村長が村の歴史を案内してくれるという。みんなバラバラに各文化を教えてもらうことになった。案内役の人が声をかけてくれて、その話を聞いていた所ふと後ろを振り向くと村長が大きな木の棒で俺を叩こうとしていた。すかさず避ける。逃げる、仲間が危ないと思い助けに行く。なんとか助けて村を出る。しかしどうしても鍵が気になるので、村へ戻る。すると村に人がいない。突然"ほろろろろろ"と云う声が何十にも聞こえてくる。家々の間から村人が出てきて彼らはみんな赤い仮面とマントをしている。もうだめだ、と思うところに助っ人が入る。村人の女性一人が助けてくれた。ここで目が覚めた。