2012年1月22日日曜日

通り魔は火曜日にやってくる(She is Damn Blonde)

近頃渋谷原宿を中心とした通り魔殺人事件が頻繁に発生している。被害者はいずれも裏原宿系と呼ばれるファッション雑誌”フルーツ”に街のおしゃれさんとして掲載されたことのある女性で、特に金髪の女性が狙われる傾向にあった。かならず首を切られ、髪の毛をそぎ落とされているのであった。事件が拡大するにつれて原宿から金髪が徐々に減っていき、「原宿は死んだ」と云うものまで出てくる始末であった。俺は既に原宿のおしゃれ世界からは身を引いた人間だったが、どうしてもそれが気になるのは、一緒に暮らしているミカが依然として金髪ファッションを貫いていることだった。ミカはフルーツに”絶滅危惧種の金髪ガール”としてスナップされることが多くなったが、それは俺の心配を余計に強くするだけだった。バイト先である西麻布へ向かう途中、俺は原宿通りをすぎる。その度に俺はミカがいつ通り魔に殺されてしまうかと気が気でならないのだった。 

「そろそろそんな髪色やめたらどうだ、今に殺されちまうぜ。」 
俺がいくら云っても彼女はこう答えるだけだった。 
「あら、あなたが好きだっていうからこうしたのよ。」 

俺はある日見てしまった。バイトへ向かう途中、覆面をかぶって金髪の女性を包丁で襲っている犯人の姿を。その覆面は、俺がハロウィンの仮装で、ウォッチメンのロールシャッハに憧れて作った左右対称の覆面そのものであったのだ。 

ミカは俺に気付いて近付いて来た。彼女はこう云ったのだった。 
「これであなたの好きな金髪の女性は私一人、今後あなたが私を捨てようがどうしようが、金髪の女性は世界に私たった一人よ。」 
俺はミカを強く抱きしめた。それは恐怖からではなく、深い愛情からだった。