2012年6月8日金曜日

純一が裸足の理由

もう歩き続けて一週間が経つ、俺はいつまでこうして歩き続けていればいいのだろう、不思議と腹も減らずのども渇かないのだが、いったい俺は何故こうしてこの大草原を歩き続けているのか、そもそもどうやってここに迷い込んで来たのか検討も付かずにいた、と頭の中で解説を考えはじめたとき、草原が終わり川辺に出た。子供達が何やら石を積んでいるが、それを如何にも”私は渋谷で毎日を暮らしています”という風な若者達が崩して回っている。ああ非行少年、君たちは何故弱いもの苛めしか出来ないのだ。どうせやるならでかいこと、チームを率いて要人殺害とか、薬の売り買い、集団レイプ、そういったことをやればいいのではないか。近頃の若者は元気が無さ過ぎる。子供いじめなんてちっぽけなことで自分の悪さを再確認するなど愚の骨頂だ。目を合わせないようにその横をそそくさと通り過ぎる。川にはなにやら光を放つ魚が見える。鯉である。鯉であるのだが、紫や緑、黄色などの輝きを放っていて恐ろしく美しい。その美しい光景の真ん中に水面にうつった自分の顔が邪魔をしている。と、その額の真ん中になにやら穴があいているのを見て、やっと俺はすべてを思い出す事が出来た。そうだ、俺は死んだのだった。天皇を殺そうとして逆に、撃ち殺されて。つまりここは三途の川の橋の途中、先ほど石積みをしていた子供達も死人、それを壊していたのはつまり鬼である。それを考えた瞬間サーッと青ざめた。もし今俺の死体が下の世界にまだ存在しているとしたら、俺の顔は真っ青になっていることだろう。長年の謎が解けた。ああ、こんな世の中だったらもっと、女とか、酒とか、やっておけばよかったものが沢山ある。政治なんてものに興味を持ち学生運動のリーダーとして毎夜々々拳を振り上げ演説するならその口を女のひとりふたり口説くのにまわせば良かったのだ。俺は死んでいるのに死にたくなって川に身投げをした。それでこのザマなんだよ、ありとあらゆる女にもてたくてね。靴は揃えてきたかって?もちろん。だから、靴を履くときもくつしたは履いていないだろ?